『田園の詩』NO.84 「コビリ今昔」 (1998.6.30)


 朝から仕事台に座る職人にとって、午前10時と午後3時の休憩タイムはうれしい
ものです。タバコを吸わない私には専らコーヒータイムということになります。

 ただ、職人は私一人なので、コーヒーを用意してくれた女房と二人だけの≪おや
つ≫は、少しさみしい気がしないでもありません。

 昔から、職人に≪おやつ≫の接待はつきものでした。今でも田舎では、大工さんや
植木屋さんに仕事をしてもらう時、≪おやつ≫の準備を怠ることはできません。

 この≪おやつ≫こことを、当地では≪コビリ≫といいます。小昼(コヒル)が訛った
言葉だと思います。

 昔は、田植えや稲刈りなどの農作業は人手を雇っての共同作業でした。時間とも
なれば、田圃のあちこちで大勢が輪になってのコビリ風景が見られたものです。たま
たま学校の帰りに側を通りかかると、私ら子供達にも何か握らせてくれた思い出が
あります。

 そのメニューは大体は決まっていました。フクラカシ餅(小麦粉の団子の中にアンを
入れ、サルトリイバラの葉で包み、蒸した餅)、イシガキ餅(小麦粉を練って中に
サイコロ状に切ったサツマイモを沢山入れ、よく混ぜ合わせて大きめの団子にし、
蒸した餅)、オニギリ、巻き寿司、イナリ寿司、オコワご飯…等々、どれも自家製の
ものでした。(一度に全部出すのではなく組み合わせて出す。)

 中でも、イナリ寿司は、大きい油揚げをそのまま使った特大のもので、食べ残しては
悪いと思い、ほしいけれども貰おうか貰うまいかと、子供の私はいつも迷ったものです。

 6月も半ばを過ぎ、当地では田植えもほとんど終わりました。昨今は大型の機械を
使うので、広い田圃も家内の2〜3人で間に合うし、仕事もすぐに済みます。


      
      田植えの一連の作業の中でも一番きついといわれる≪畦ぬり≫も機械化され、
      こんなに立派にできるようになりました。皆さんほとんど作業チームに頼んでして
      もらっているようです。1m当たり60円とか…。 (09.5.25写)



 農作業がきつい肉体労働だった昔は不可欠だった手の込んだコビリも、体が楽に
なった今では、缶ジュースと菓子パンで簡単にしているようです。

 田植えに伴う一連の農作業も、コビリ風景も、随分と様変わりしました。
                         (住職・筆工)

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